自由が正義と対立し、平和を求めれば不正義が必要とされる世界のヒロイック・サーガ、混迷深まるクライマックス直前であります。

仮面の剣士クロードの暗躍により輝子はトチ狂い、爾郎先輩は空白のオリジンに思い悩み、純白の無垢をいくら求めても世界は薄暗い。
運命のゼロアワーに向けて、混乱が加速する第12話となりました。

なんとなーく神化世界に慣れ親しんできたこのタイミングで、作品をかき回しまくっている怪剣クロード。
米軍と日本政府の超人兵器化実験を暴き、『良い超人』を謳い文句に学生をオルグしまくる背後には、しかし里見顧問と帝告がいる。
輝子をマンドラゴラ漬けにした医師と同一人物であること、彼の言う理屈があまりにも耳に心地よい善悪二元論であることを考えると、その裏を疑いたくもなります。

しかし同時に、彼が小笠原で実験動物扱いされ、国家の暴虐の犠牲者となった聖なる復讐者である事実もまた、否定出来ない。
『悪』を殺す彼の行動が果たして『正義』なのかは未だ不明(おそらくは他のあらゆる『正義』と同じように灰色なんでしょうが)ですが、少なくとも彼が受けた傷と痛みだけは本物でしょう。
人吉博士の養子として小笠原に送られなかった爾郎が持ち得ない、正当な国家への復讐動機が彼にあることが、殺人者である彼を『悪』と断じきれない理由であり、それと同時に無垢なる怒りが何か別の『正義』(もしくは『不正義』)に利用されているのではないかと疑う源でもあります。

様々な勢力と個人が求める『正義/自由/平和』はそれぞれぶつかり合い、お互いを傷つけながら幻想を破壊していくというのが、神化世界の厳しいルールです。
クロードの怒りと衝突した超人課にも守りたい『正義/自由/平和』があり、しかしそれは確実に『不正義』と直結してしまっている。
惑わされた輝子のように、もしくは騙されて大量虐殺を行った風郎太のように、幼く単純な『正義』を求めれば、別の『正義/不正義』に利用されるだけであって、逃げ道などどこにもないわけです。
クロードが登場し物語をかき回すことで、この峻厳なルールが明確になった気がしています。

クロードの物語的役割はその剣で『どこかに単純な白があって欲しい』という爾郎や輝子(そして視聴者)の願いを切断することであり、記憶のない爾郎が唯一身を寄せるべき『正義』を真実の暴露で破壊し、『未来編』へと繋がる道を切り開くことにあります。
自作衣装でコスプレしてテンション上がっちゃうほど、純粋に憧れた天弓ナイトの死の真相は、爾郎に己の『正義』と自身の起源を疑わせるのに、十分な破壊力を持っています。
切開された真実を前に、爾郎の『正義』はどう揺れ動くのか。(その結末を、『未来編』という形で僕らは既に先取りしているわけですが)
人吉博士に『選ばれなかった爾郎』であるクロードは、その仮面の奥にどんな『正義/不正義』を隠しているのか。
謎が明かされて尚、謎が深まるようなお話でした。


クロードが情けも容赦もなく切り開いていく世界の中で、他のキャラクターも強制的に歩みを進められていました。
「相手は子供だぞ!」というあまりにマトモな価値観を持っている芝警部ですが、次の新宿戦争が原因で皆殺し主義のテロリストになっちゃうのかなぁ……。
メインエピソード終わってからドシドシと可愛げが増しているので、確定した未来がどうにも哀しいね、芝警部周りの描写は。
クロードも天弓ナイトに救われた子供だったわけで、爾郎のシャドウ達はみんな『正義の味方』に憧れ魂を惹かれた双子なんだなぁとか、第8話でテンション上がってた柴警部を思い出して凹むよ。

輝子はスーパー悪堕ち魔女として思う存分トチ狂ってましたけど、ボリボリマンドラゴラ食べてた描写からしても、それを処方したクロード(とその背後にいる里見顧問?)に狙って堕とされた印象があります。
自分の見たい爾郎を見る輝子のエゴイズムとか、エクウスという子宮から出て、素裸を晒して説得できない爾郎の幼さとか、工事現場で対峙するシーンは見ていて痛かった……。
ここら辺の痛みは輝子に過剰にイノセンスを求めていた僕の身勝手でもあるので、当然の痛みではあるんだけどね……輝子だって人間だもの、身勝手な部分も当然あるよね。
マンドラゴラは媚薬でもあるわけで、妙にエロい表情してたのも、爾郎へのねじ曲がった愛情を利用されるのも、ある意味納得ではある。

ライカ犬でありガガーリンでもありベレンコ中尉でもあるボルガ・ライカーさんは、謎を謎のまま死んでしまいました。
彼が伝えたかった真実と、伝えた真実は来週判るんでしょうね。
彼の行動もクロードと同じく正当なる怒りから生まれてるんでしょうけども、里見顧問が効果的に顔を出しているので、それを信じたくても寄り掛かれないのは巧い作りです。
純粋な怒りでボーボー燃え上がる超能キッカーくんももろにオルグされてるしなぁ……来週酷いことになりそう。

第10話で『もしかしたら白い部分もあるかも……』と思っていた超人課首脳部ですが、やっぱり黒かった。
天弓ナイトを『必要な犠牲』と言い切る博士の口には邪悪さが匂うわけですが、しかしその結果達成された国家による統制で救われた存在もまたいるんだろうなぁと想像すると、黒と白の境界が(製作者の狙い通り)あやふやになっていきます。
課長はオーバーロードだしなぁ……次回予告で言ってた『人類の達成するべき進化を導く』っていう『正義』がモチベーションなのかなぁ、あのスター雲爺。


というわけで、無垢なる『過去編』と挫折した『未来編』の結節点に向けて、謎を暴くことで謎を増やし、話を加速させる回でした。
クロードが口にする真実が果たして『正義』と同じなのか、ちゃんと疑えるように尻の座り悪く作っているのは、とても良かったです。
仮面の奥に何があるのかは今回分かったけども、素顔のクロードと爾郎を大人たちが、どんな思惑で使っているかは未だわかりません。
その真実が明らかになった時、おそらく『過去編』と『未来編』は繋がり、このねじれた物語は一つの結末にたどり着くのだと思います。
来週がとても楽しみです。