あまりに過酷な運命に立ち向かう少年と妖怪のお話、今回はキリオ編最終章。
これまでキメまくったナイス演出を上手く使い、母性の怪物たる斗和子と、それに振り回されるキリオ、彼の絶望を受け入れる潮の器の大きさなどなど、色々見えてくるお話でした。
動きと声がついてまとめて見ると、斗和子=白面が本当に獣の槍を恐れていること、それを大物ぶった態度で隠していることがこの段階から見て取れて、アニメとして再構築された意味もあるなぁなどと思う。

今回の軸はやはり斗和子とキリオでして、無邪気に純粋に母を求めるキリオがボロクズのように傷つけられる姿が、巧く描かれてました。
とらちゃんが九印に『キリオはロジックを踏み越えねーから脇役、理屈を超えた血を流さないから負け役』と言ってましたけども、これまで余裕の態度で強キャラブッていたキリオがズタボロになってみると、その言葉の意味がよく分かる。
奪われ、削られて見えてくる余裕のない魂の地金と、それが引っ張りだす理不尽な行動があってこそ、やっぱキャラクターというのは絵空事を半歩超えてくるわけで。
キリオのお話を一旦閉じるに辺り、あそこまで悲愴に追い込んだのはやっぱいい動きだなぁと思います。
とらちゃんとバチバチやりつつ、キリオが傷つくとすぐさまフォローに行く九印が好き。

そして自暴自棄になったキリオにあまりにも正しい気持ちをぶつけて、彼の気持ちを収める潮の器が見れたのも、キャラクター同士の共鳴として素晴らしい。
今回の騒動は光覇明宗の坊さんたちが潮を信じきれなかったことが原因であり、収めるためにはただの力以上の正しさ、器の大きさを見せることが大事になります。
斗和子に踊らされ、呆然としていたと思ったら裏切り、今度は母を刺してまた暴れる。
キリオの行動は理不尽なんですが、それ故理屈を超えた感情のうねりがこもっていて、それを正面から体を張って受け止め、まっとうな道に正してやる潮の強さをモブの坊主ども(と視聴者)に見せるのは、お話の収め方として良いなぁと思いました。
ヒョウさんといい、潮少年は『分かっちゃいるが、どうしても気持ちが収まらねぇ』という激情の発露としての暴力を、良く受け止める子だなぁ。

潮ももちろんただ正しいだけではなく、迷ったり弱ったり傷ついたりしながら、それでも正しさにたどり着くから主人公なわけです。
今回で言えば、封じられた槍を前にしてのギリョウさんとの対話シーンは、そういう潮の戸惑うぃをちゃんと言葉にして、正しさに向けて駆け出すための滑走路なわけです。
正しさだけを振り回すキャラクターはどうにも空々しくなりがちですので、こう言う逡巡をしっかりシーンとして作って、『お前らと同じように、色々あって潮も正解を選んでいるんだ』と見せるのは、目立つオチに隠れてはいるけどこの作品のとても優れたところだと思います。

潮は母と離れて育ったので、キリオの混乱は自分事のように感じられるはず。
似た立場だからこそ振り回す鎌の内側に入ってビンタもかますし、しかし『俺もおふくろがいねぇ!』とは(今回は)言わない。
ここら辺の優しさと強さ、正しさの配合が、非常に巧く言っている主人公ですな、潮少年は。


主人公たちが正しさにたどり着くためには魅力的な悪役が必要なわけで、斗和子はその役目を十分以上に果たしてくれました。
唐突にレンブラント光線を背負い、バッハなど引きながらケレン味十分に登場する意味はあるのか? とか首をひねりますが、怨敵獣の槍についに『詰めろ』をかけられると合って、ついつい興奮しちゃったんでしょう。
今回の斗和子の見せ方は彼女(の本体である白面)がどれだけ獣の槍に執着し、恐怖しているかを先取りする演出になっていて、そういう意味でも面白かったですね。

そして、とにかく怖い。
キリオの純粋さを弄び、しかし奇妙に彼の執着も納得できてしまうような母性の闇も覗かせる、見事な悪役ぶりでした。
黒幕として暗躍していた時代も十分な説得力を持っていましたが、真相を明らかにして呆然とするキリオに見せた笑み、最後まで母親を演じて生き残ろうとする醜悪さと、林原さんの快演もあって印象に残る敵でした。
キリオにぶっ刺された後痙攣してる姿が、どうしてもギブアップに見えてしまってひとしきり笑ったのは秘密だ。

今回の話はお役目様という光の母と、斗和子という闇の母が潮とキリオ、二人の子供を取り合う戦いだったといえます。
圧倒的な戦闘力を持つ悲劇のヒロインとして、憎たらしい悪役にして妖美なる母として、それぞれちゃんと戦いの現場で散っていくのは、この作品らしい男女平等主義だなぁと思います。
『安全圏でのうのうとしているキャラクターを、視聴者は好きになってくれない』というのは、このお話しの根本的な哲学でして、小憎らしかったキリオがズタボロにされるのもまた、そういう基本に則った展開なのでしょうね。


サブプロットとしては『腑抜けた潮ととらちゃんの喧嘩』というのがあるのですが、九印くんがいいトス上げをやってくれたおかげで、とらちゃんが潮を好きな理由の再確認だけではなく、二人の関係やこのお話で是とされる価値観の見直しとかもできていた、良い脇道だったと思います。
九印くんが憎まれ口をたたき、余裕ヅラで色々煽ってくれるからこそ、とらちゃんは自分の気持をまとめ上げ、それを見ることで視聴者もこのお話で大事なものを再確認できる。
ここら辺もまた、ストレートの威力を上げるための変化球の巧さといいますか、本命を引き立てるためには小技の上手さが大事といいますか、うしとららしいところだと思います。

ツンデレ道ブラックベルトは伊達ではなく、今週もとらちゃんはツンツンデレデレしていて素晴らしかったです。
『あ、アイツの悪口を言って良いのは私だけなんだからね!!』ムーブで九印に勝つ辺り、やっぱラブコメヒロインとしての完成度が高すぎる。
人間と妖怪という異質な立場がお互いを理解し、寄り添っていくお話なので、離れたところからくっついて行くという運動の質としては、やっぱラブコメっぽくなるのか。
というか、『離散と集合』という基本的な運動自体は様々な物語に共通で、巧みな語り口というのも実はそこまでパターンが多くなく、伝奇バトルとラブコメという表面上はバラバラなジャンルでも、実体的な見せ方として効果的なやり方は収斂していくのか。
とらちゃんを見ていると、時々そんなことを考えます。


潮の言う通り色んな人が死んでしまいましたが、なんとか今回の騒動が収まりました。
光覇明宗と敵対する今回のエピソードは、潮が孤高のヒーロではなく、巨大組織との関わり方も考えなければいけない、結構社会的な存在であることを強調した気がします。
妖怪という異常な存在と戦うこの話、ともすれば光の当たらない方向に閉じていく傾向が生まれそうなんですが、組織とか社会とかに対して開かれた風通しの良さが貫かれていて、それはお話が進むごとに拡大していく。
キリオと彼が扇動した坊主たちは、うしとらにある社会的傾向、開かれた方向性の上にあるものでして、お話しの特色を確認する上でも面白いエピソードでした。

勝ったり負けたりいろいろ苦闘しながら味方につけた坊主たちは即ち、そうやって色んな力を束ねないと立ち向かえない白面の巨大さ、バカでかい困難を乗り越えるカタルシスにも繋がるわけで、やっぱ色々考えられたお話だなぁと今更ながらに痛感します。
広げるだけだと爽快感がなくなるので、潮という主人公がとにかくまっすぐで存在感があることで、拡散と収束を同時に達成しているのだな。
彼が飛び込んだ運命の渦が、どう激しさを増していくのか。
見届けたくなる気持ちがさらに増していく、キリオ編最終章でした。